【文章】 単車夢小説?
ついでなので単車別館のほうの気に入ってる小説も移動させてみる。
元は夢小説なので、主人公の女の子の名前が□□になってます。
無駄に長いです。
長いうえに2本詰め込んでるので長いです。
それでもよろしければどうぞ
---- コックローチ ----------------------------------------------------
手を伸ばせば、届くと信じていたい。
手を伸ばしても、届かない物だってある。
何故なら俺とあいつは全く以て違う生き物で、
全く違う時間を生きる、生き物で。
「おい、茶。」
「は?自分で入れろし。」
暑い夏の日
外の工事の音
ピンクのTシャツを着た□□
ピコピコ煩いテレビ
それ以上に煩わしい蝉の鳴き声
「…昨日は俺が入れた。
今日はお前の番だろう。」
「あたし今ゲームやってんの。
手ェ離せませぇーん!」
「…切るぞ」
「ギャーッ!!やめてよ今めっちゃ進んだんだからーッ!!!」
「茶。」
「…もー、分かったからちょっと待ってて。」
「紅茶な。」
「ハイハイ。」
「砂糖を忘れるな。」
「ハイハイ!」
ぱたぱたと、あいつのスリッパの音が響く。
そしてそれと同時に、
この部屋からは全てが消える。
色もない
音もない
今までやかましかった外の音も、あいつが夢中になっていたテレビの音も、何も聞こえない。
今までずっと視界に入っていたピンクも居ない。
嗚呼、
俺が居ない。
「…何?」
「お前が入れる茶は不味いから、様子見。」
「カッチーン…
わざわざ来るなら自分で入れなさいってば!」
「煩い。ホラ、やかん噴いてるぞ。」
「わっ!」
黄色いやかんがシュウシュウと音を立てているのを指摘すると、
□□がカチリ、とコンロのスイッチを切った。
そのままピンクのカップと、緑と黒の斑模様のカップ(どこで見つけたんだこんなの)にトプトプと湯が注がれる。
「おい馬鹿下手糞。」
「んなっ!!
だから文句言うならアンタがやりなさいって…っ!?」
「変な声を出すな。」
□□の手を包み込むように一緒にやかんを持つ。
ひとまわりも小さい手。
自分とは違う、温かい手。
「もっとゆっくり入れるんだよ」
「なななななななな離しなさいよッ!!!」
「煩い。」
持ちにくいので、
隣に並んでいた体をぴたりと□□の背中につけた。
一回りも二回りも小さい体。
「暑い。」
「…なら離れろし。」
「煩い。」
「悪かったねうるさい女で!」
分かり切ったことだ。
俺とあいつは違う時間軸を生きていることも。
一緒になることは絶対に出来ないことも、
いつか、必ず、
消えるときが来ることも。
今のこののどかな時間が幻のように脆くて儚いことも。
あくまでこの平穏は夢物語で、本当は手を伸ばしたって
手を伸ばしたって届くような所には無いって事も。
「ちょ、バカどこに手ェ置いてんの!!」
「あっ馬鹿暴れんな!」
それでも。
□□に触れているこの時間。
今この瞬間だけは
間違いのない本当の現実だと、
信じたいんだ。
(「…おい、ちゃんと砂糖入れたのか?」)
(「え、ちゃんと3杯入れたけど?」)
(「…足りない」)
(「糖尿病になってもあたし面倒見ないからね。」)
---- アンコール ---------------------------------------------------------------------
自分達がしようといていることに、
疑問を感じたことなどなかった。
過去を持たない自分達にとって、
こんな世界に何の感情もなく。
ただ命令されたことだけを遂行する。
それだけを思って。
自分達は、多くの物を持たない。
あるのは、この「世界」と「自分」「他人」そして「カ・イ」という認識。
たくさんの「他人」の中から選ばれた「自分」は
「カ・イ」に命令された通りに「世界」を壊す。
そうして初めて、自分達は「時間」を得る。
ただ、それだけ。
それだけだった。
が、
『俺、参上!』
自分の中に新たな認識が生まれた。
それと同時に、いたって本能的に、悟ってしまった。
この「世界」という舞台では、
自分達は決して、
嗚呼
決して主人公には成り得ないということを。
それは残酷な現実であり、至極当然な事実。
「俺達はあくまで脇役から抜け出すことは出来ないのだ。」
「アントー、あたしにもコーヒー!」
台所で考え事をしていたら、そんな間延びした声が聞こえた。
一気に現実に引き戻される。
(疲れているのか…)
近くにあった鏡で顔を見たら、全く酷い顔をしていた。
「分かったから少し待ってろ。」
いつもなら断るところだが、あいつにこんな顔を見られるのが癪だった。
やかんの中ではゴボゴボと音を立てて湯が沸いている。
(らしくない…)
ここまで自分が感傷的な生き物だとは思わなかった。
インスタントの珈琲をカップに入れて
湯を注いでいたら
近づいてくる足音に気付くのが遅れた。
振り向くよりも前に、背中に感じた体温。
「アント、何かあったでしょ。」
全く…
「別に何もしない。」
「ウソこけ!」
普段は鈍感なくせに、
こういう感覚的な部分にばかり鋭くて困る。
「危ないから離れろ。熱湯かけるぞ」
「…やだ。」
ぎゅう、と
俺の腹あたりに回された手に力がこもる。
「全くお前は面倒な女だな!!」
「だって…」
その声が少し震えていることに気付いて、
心底まいってしまう。
やかんを置いて、体を反転させ、
□□と向き合う形になる。
下を向いて嗚咽を漏らす□□の顎を掴んで、
無理矢理上を向かせると
案の定泣いていた。
「何でお前が泣いているんだ、馬鹿。」
「痛いーっ!離せ!離せバカっ!
アントが何も言ってくれないからだバカ!
バァーカッ!!!!」
思いっきり罵声を吐いたかと思うと、今度はわんわん泣き出してしまった。
どうしたらいいのか分からず、
とりあえず抱きしめて背中をさすってやった。
騒ぎを聞きつけたキリには
「あんちゃんが□□泣かしたーっ!」なんて
指さしてからかわれるし、
服はぐっしょぐしょになるしで散々だが、
こいつと出会う前よりもずっとカラフルに見えるこの世界は、
何だかんだ言っても、楽しいわけで。
この舞台は、俺達に許された
最初で最後のアンコール。
もう二度と幕が開かないと言うのなら、
嗚呼。
俺はその幕が閉じきる最期の一瞬まで、
最高の毎日をお前と送ろう。
「ホラ、珈琲でも飲んで泣きやめ。」
「うん…ずずっ………げぶっ!!!!」
「…汚い」
「ちょ、え、
しょっぱいんですけど ^▽^」
「砂糖の代わりに塩を入れた。」
「え?なにその無駄な嫌がらせ!!」
「泣きやんだじゃないか」
「これ明らかにあたしが泣く前から入ってたよねえ!?」
忘れないように。
最後の時が来ても忘れないように。
そしてもし、
その幕がもう一度開くようなことがあったならば
俺は言うんだ。
「「ただいま。」」
(それは叶わぬ願いと知りながら。
(有り得ぬ理想を夢に見て。
(また。
(俺達は時を紡いで行くのだ。